<8月8日(水)> 晴れ
青森県碇ヶ関を早朝出発。近くのコンビニでおにぎりを買う。
「さて、今日はどこまで行けるか。」
と、地図をながめながらおにぎりを食べた。
今回の旅でぜひ行きたかった温泉がある。青森県黄金崎の不老ふ死温泉である。なぜ、「ふ」がひらがななのかわからないが、夕焼けを見ながらの露天風呂という風情のある温泉と聞いている。去年の今頃、山形県一周をしたときに知り合った全国一周していた大学生に、ぜひここの風呂に入ってみてと伝えたことを思い出した。(自分は行ってないが・・)だから、必ず行こうと決めていた。
そのためには、弘前から戻らずにまっすぐ鯵ヶ沢町を回る。でも、今日中に黄金崎まで行けるだろうか。自分の足と相談してみる。GOという答えが返ってくる。筋肉痛と疲労がピークなのに、なぜだろう。心はすでに黄金崎。
「もう、行くしかない。」
弘前到着。
有名な弘前城ぐらいは見ていこうということで、地元の方に写真を撮っていただく。快く引き受けてくださったこと、とてもうれしかった。とても広い弘前城を後にして、アップダウンの続く県道31号線をひらすら北上。間もなく海が見えるはずだというところで、一軒のラーメン屋。
店先には、1100CCのカッコいいバイク。お店には、「ライダー大歓迎!バイクのお客様、ライス・餃子サービス」の文字があった。引きつけられるように店内へ。店内には、過去ここにきたライダーの写真が所狭しと貼ってあった。バイク好きのマスターと会話がはずむ。マスターの青森弁がなぜか心地いい。
「自転車もライダーですか?」
と聞くと、
「もちろん!」
という返事。さっそく、ごはんと餃子をいただく。さらに惣菜も一品つけてもらう。マスターの心意気に感動。一緒に記念写真。普通のラーメン屋ならこんなこできないと思う。マスターも、自分の写真を撮りたいという。お店に貼りたいということだった。こんなオヤジが東北一周していることがとても珍しかったのだろう。午後に会った自転車ライダーにも紹介した。ありがとう!マスター!!
海だ!峠で県境が見えたときと同じような感動。日本海は何ども見てきたけれど、こんな気持ちで見たことはない。海風を肌に感じながら、しばらく海を眺めていた。
「あとはこの海を見ながら帰るのか。」
後半戦への意欲が湧いてきた。(連日の疲れに、まぶたがはれぼったい・・)
途中、イカ焼きの香りに負けてしばし海を見ながら海の幸をいただく。お店のお母さんが椅子を持ってきてくれた。自転車の旅人への思いやりだろうか。店主に写真もお願いすると、またまた快く引き受けてくれた。青森の人は、とてもいい人というイメージが自分の頭の中にできあがる。
イカのパワーと潮風でパワー全開!アップダウンがあるものの、国道4号線とは比べものにならないぐらい走りやすい。
一息入れようと立ち寄った深浦の道の駅。3人の自転車ライダー。見るからに自分より年配とわかる方たち。3人合わせて200歳と言っていた。70前後ということだろうが、自転車の経験はなく、最近始めたということだった。年老いても、足腰だけはしっかりとしていたいということなのか。自分もこんないい歳のとり方をしたいものだ。笑顔が印象的な老人(失礼・・)から、たくさんの元気をもらった。
夕方になったがやっと着いた!『不老ふ死温泉』。国道からけっこう下ったところにあった。ところが、夕日を見ながらの露天風呂は、4時以降は宿泊客限定ということであった。時間を見たら、4時50分・・。残念だが、内風呂からも夕日が見える。
風呂に入ると、我町にある「かいらぎ荘」と同じ土色の湯であった。タオルが土色になる。
風呂上がり。夕日を見ながら、ここ数日間の旅を振り返る。一人旅ではあるが、出会った人たちや自分を今まで支えてくれた多くの人たちのことを思い出す。一人旅だからこそ、こういう思いになるのだろうか。
さっきまで、右ひざが悲鳴をあげていたが、この温泉に入ったら不思議と痛みが和らぐ。さすが、不老ふ死温泉というだけある。
夕日が沈みそうになったとき、
「今日の寝床をどこにするか」
という大きな課題を思い出した。深浦町のいたるところに、『キャンプ禁止』の立て札。過去にだらしない人たちがゴミだらけにしていったからなのだろうか。自分はたたみ一畳分の広さがあれば十分なのに、なかなか見つからない。仕方がないので、国道を南下することにした。
さらに、夜ごはんをどうするか。食堂やコンビニが全然見当たらない。民家すらまばらになってきた。
「とにかくペダルをこいでいれば、何かがあるに違いない。」
そんなことを考えながら、温泉で立ち直った足に力を込めた。
突然、町が見えてきた。しかも、「マックスバリュ」の看板。
「助かった!」
弁当と飲み物を買い、またまた寝場所を探しに出かけた。
とてもきれいな公園発見!芝生もあり、ここにテントを張ろうと思ったが、深浦町には「テント禁止」という看板があったことを思い出す。夕暮れの海を見ながら弁当を食べていると、地元のおじさんが犬の散歩にきていた。
テントを張っていいかどうかを尋ねると、
「いいんじゃないの。ここはトイレもあるし便利だよ。」
という返事に心が踊った。
なんという光景!眼下に見下ろす一面の海。こんな海を見えるところにテントが張れる。この旅で一番のぜいたくした気分。ウミネコと波の音がかすかに聞こえる。助かった!
本日の走行距離 113km
<8月9日(木)> 晴れ
昨日、マックスバリュで買ったパンと牛乳が朝食。またまた早朝出発。朝の潮風がとても気持ちいい。なぜか優雅な気分に浸る。
いよいよ秋田県に入る。県境に来るといつも感動が沸き上がる。記念写真を撮っていると、向こうで同じように写真を撮っている若者がいた。
日本一周の若者である。同じルイガノの自転車に乗っていたことや、前と後ろに荷物を積んでいることという共通点もあり、お互いにすぐに共感できた。道路っぱたで会話がはずむ。
数年間勤めていた会社を辞め、日本一周の旅に出ているという彼。自転車の後ろには、
『人・風景一期一会を楽しみながら日本一周中。登場人物募集中』
という言葉があった。一人旅の原点かと思った。去年も大学を留年して日本一周している若者と出会ったが、同じオーラを発していた。相当な根性がないとできないことである。自分は休みをとって、その中での旅であるが、彼らは全然スケールが違う。彼のような考えや体験を持つ人は魅力的である。充実した人生を送るのだろう。若いからできることでもあるが、年齢ではなく、人生観そのものである。
イケメンの彼の笑顔がとても印象的だ。いつまでも話をしたくなる人柄である。
彼に言われたこと。「こんな先生いたら楽しいだろうな」
もう一つ印象的な彼の言葉が頭から離れない。
「自転車ぐらいの速さがちょうどいい。」
その意味がこの旅の基本となっていることを改めて感じた。
さらに彼のブログで自分のことを発信していただいた。
http://ameblo.jp/h3kaz/entry-11324398503.html
このブログで、「教員チャリダー」というネーミング。若い人はすぐにこういう言葉が頭に浮かぶ。 彼は今頃北海道かな。フェイスブックでも友達になった。こんなオヤジでも、立ち話をしていただいたことに感謝!
秋田県八峰町の道の駅「はちもり」。小さい道の駅だ。ここで61歳の一人旅の人と出会う。電動アシスト自転車の荷台には、3つものバッテリー。これで青森まで行くのだという。おもしろい人もいる。この方にも、ライダー歓迎のラーメン屋を宣伝した。メルアド交換した。
能代付近でコインランドリー発見。選択の合間に、近くのラーメン屋へ。背脂のきいたしょっぱいラーメン。汗だくで塩分不足の身体にはちょうどよい。
洗濯も終わり、いよいよ楽しみにしていた大潟村。さっき出会った老人3人組の方々から、17kmもの直線道路はぜひ走った方がいいという話を聞いていたからだ。
話通りの直線道路。ずっと向こうが遠くて見えない。こいでもこいでも同じ風景。日本全国でここぐらい長い直線道路はないだろう。
でも、一体村人はどこに住んでいるんだろう。結局、大潟村の民家を見ることはなかった。
道の駅「おおがた」で休憩。美味しそうな地元産のトマト。眺めていると、生産者のおばちゃんが話しかけてきた。たくさん入っていてひと袋百円!話通り甘くて美味しかった。ペットボトルの味に飽きてきた身体の中に、染み込んでいくのがわかった。トマトってこんなに美味しかった?自転車の旅では、格別な味。一気に食べ終わった。
とあるドライブイン。巨大なまはげ出現。秋田っぽさがにじみ出ている。なまはげを後にして、潟上市の道の駅をめざす。去年出会った日本一週の大学生からの情報で、夕日がきれいに見える道の駅ということであった。
道の駅「天王」。別名「グリーンビレッジ」
その名の通り、とても広い敷地面積。サッカー場もある。道の駅の中には、すべてのものが揃っている。温泉あり、タワーあり、散歩コースあり、600台の駐車場あり・・今までで一番スケールの大きい道の駅。トイレの中は、観葉植物であふれ、自動で水が流れる最新式の様式トイレが10個以上。清潔感でいっぱい。旅も楽しくなる。
ギリギリ閉店時間に間に合ったレストラン。奮発して、まぐろづけ丼と塩辛を注文。胃袋に染み込む味。大好きな塩辛なんで、ぺろっと全部食べた。
タワーからの眺め。海も見渡すことができ、最高の夕焼けに疲れが癒される。
温泉にも入り、薄暗くなってからテントを張る。キャンピングカーでの宿泊客がたくさんいた。キャンピングカーの中で、家族の楽しそうなおしゃべりが耳に入るが、明日早起きできるようにすぐに就寝。
本日の走行距離 106km
<8月10日(金)>
連日の早起きにも慣れてきた。やっぱり朝は走りやすい。
秋田市に入った頃だろうか。道の駅「あきた港」。高いタワーが見えた。面白そうな道の駅だ。秋田の人はタワー好き?
うーん、高すぎて上まで写らない。ここの港で釣り人を見ながら朝食。終わるやいなやすぐに出発。
道の駅「岩城」。生牡蠣があったのでさっそくいただく。冷たくてとても美味しい。また、がんばれそう!
この旅では、東北をめぐったわりには、仙台の七夕や青森のねぶた、雄物川花火大会など、ほとんどかすってきた。秋田の象潟に野宿しようと予定していたが、鶴岡で赤川花火大会があると知り、どうしても見たくなった。そう心に決めてからは、ひたすら走った。
秋田県にかほ市から見た鳥海山。山頂付近は雲で見えない。あの山頂あたりは山形県。やっと山形県を感じた瞬間。
いよいよ山形県の表示!ペダルをこぎながら、目から涙が・・。自転車ならではの感動。やっと帰ってきたぞ!しかし、目的の鶴岡市までは、あと数十キロ・・・。暗くなるまでに行けるだろうか。
山形県酒田市から見た鳥海山。山形県一高い山だけあって、雲がかかっている。機会があったら、鳥海山にも挑戦してみたい。
鶴岡が近づくが、夕暮れ迫る。暗くなると、自転車はかなり危険度が増す。しかし、もう100km以上走っている。今までにない足の疲労度。ペダルがかなり重く感じる。この辺の田んぼの中で野宿しようか・・・なんて弱気になった瞬間である。
辺りが暗くなった頃、鶴岡到着。遠くから花火の音が聞こえる。花火の上がる方へと自転車を進めた。人だかり。自転車の旅の最終の夜をひめくくるにふさわしい12000発の花火。大震災で被災した人たちもたくさん招待していると聞いた。
「がんばろう東北!」
改めて東北、いや日本全体が元気になるように心で祈った。
おっと、一番大切なことを忘れていた。今夜の野宿の場所である。スマホで調べると、鶴岡公園という広い公園があった。9時ごろテントを張った。暗い中でもテントが張れることがわかった。何日もテント張ってりゃ、できるようになる。
花火の興奮の中、テントでゆっくり休む。今日は、花火を見るために、かなり無理をしたが、がんばってよかった。思えば必ずできる。そう思いながら、眠りにつく。
本日の走行距離 154km(よく走ったー!)
<8月11日(土)>
鶴岡公園早朝。テントをたたんでいると、地元の老人にあいさつされる。東北一周の旅であることを伝えると、がんばってねという言葉。何気ない一言で、元気になる。ありがとう!
野宿をして学んだこと。不審者であるという自覚を持つ。そのためには、暗くなってからテントを張り、朝早く出発する。使う前よりきれいにしていく。これが野宿の基本。
昨年の山形一周の時も鶴岡宿泊だったので、今日中には家に着けるだろうと考えた。しかし、去年は寝袋やテントなどの重い荷物はなく、身軽な感じだったことが大きな違い。
また、去年は7号線を南下したので、今年は海岸沿いを帰ることにした。最終日としたくて、自転車に乗るが、昨日花火を見るために150kmも走ったのがたたって、旅行中で最高に足が重くなる。
そんな時であった。
対向車に知り合いが乗っていた。いきなりクラクションがなったので振り返ると、同じ町に住む知り合いの高橋さんととくさん。秋田に行く途中とのこと。高速使わないで下道をきたら会ったという。フェイスブックでその都度アップしていたので、もしかしたら会えるかもしれないと思っていたと言ってた。二人の顔が、仏様の顔に見えた。まだまだ、鶴岡だけど家に帰れるような気持ちになってきた。ありがとう!高橋さん、とくさん。
この頃は、髭面が板についてきた。うっとうしいけど、ワイルド感がおもしろい。
最後の外食となるだろう。道の駅「あつみ」。レストランでちょうど粟島が見える席があいていた。最後のラストスパートができるように、はらこ丼(イクラ丼)を注文。味わって食べた。
新潟県に入る。見覚えのある風景。笹川の流れなど、懐かしい海水浴場が見える。家族など楽しそうに海水浴を楽しんでいる。のどかな風景。
海岸線ともお別れし、新潟県の村上市街地へ。この旅でお世話になったサンダル。部分的に日焼けした足。スパッツには汗として出た塩がふいている。この旅を振り返っていた。
この旅で、距離メーターがゾロ目になる瞬間が8回あった。今回が最後。999.99km!めったに見ることができない数字。家に帰れば1000キロを超える。
上り坂では、一番軽いギアでもこぐのが難しくなったころ、ようやく見えた山形県。今までの県境の表示で一番感動した。もう目の前だ。あと、上りは2回。トンネルひとつ。
住んでいる町に着いた。商店街を悠々と走る。充実感があふれている。ゆっくりゆっくりペダルをこぐ。
家に到着。息子が自分の顔を見てびっくり。日焼けして髭面。こんな父ちゃん見たことないから。父ちゃんやったぞ!息子は何かを感じてくれたと思う。
本日の走行距離 134km (総走行距離 1020km)
<旅を終えて>
今回の旅で感じたこと、学んだことがたくさんありました。人と人とのふれあいや思いやりがたくさんありました。「がんばって」の声も何度かけられたことでしょう。見知らぬ土地とのふれあいから、人は互いに支え合わないと生きていけないことを感じました。一人旅とは言え、今回の旅ができたのも家族や職場の理解があってこそ。自分一人の力だけでは成功できないということを改めて感じることができました。
感動もたくさんありました。近年、車やバイク、新幹線、飛行機などが発達したことにより、より遠くへ早く行くことができるようになりました。しかし、あえて自転車でゆっくりと自分の力で行くことにより、行った時の感動が全然違いました。その土地の人たち、その場所の匂い、道路わきのゴミ、すがすがしい空気、動植物・・スピードを出して進んでいると感じられないことがたくさんあります。
大勢集まる観光地にたくさんの人が我先にと急ぎます。でも、もっと身近に、または人が集まらない場所にも素晴らしさがたくさんあります。人はカッコいいものや速いもの、便利なものなどに価値を見出します。それは当然ですが、かっこ悪いものや遅いもの、不便なものにも価値があります。普通の人には見えないかもしれませんが、そういうものが見えるようになるのも意味があると思います。
我々人間は、便利さと引き換えに、何か大切なものを忘れ去ってしまったような気がします。道路脇に落ちているコンビニの弁当の袋や空き缶などの数々のゴミ・・・車で行くと全然気が付きません。自分の腹を満たすことができれば、ゴミになった空弁当は不要だしジャマだからポイするという人もたくさんいることがわかりました。
人よりも速く良い場所に行き、たくさんよいものを手に入れて、不要なものはポイ・・。大なり小なり自分たちはそういう生き方をしているのかもしれません。
ちっぽけなこと、嫌なこと、汚いもの、弱いもの、遅いもの、めんどうくさいこと、その他多くの人たちが目を向けないことに心を向けることこそが、これからの人間にとって大切なことなのではないかと思います。
そして、自転車に乗っていると当たり前のことですが、ペダルをこがないと前に進まないこと、進まないだけでなく倒れてしまうことです。夢に向かって進むとき、とにかく一歩一歩の積み重ねが大きなものを生み出すのです。
また、登り坂はとても辛いものです。しかし、登り坂があるということは爽快な下り坂が必ずあります。登り坂が辛ければ辛いほと、下り坂がすばらしいものになります。当たり前のことですが、日常生活でも同じことです。辛いことや悲しいことがたくさんありますが、それはこれからの幸せにとってとても意味のあることです。自転車の旅で、目の前に長くて急な登り坂が現れると、
「登り坂の向こうには、ペダルをこがなくてもひとりでに進む爽快な下り坂が待っている。」
というイメージを持って汗を流しました。人生の中で、苦しみや悲しみが目の前に現れたとき、向こう側には必ず幸せが待っていることを信じて進んでいくことです。
人より速く進むことも価値のあることですが、自分なりのペースで少しずつ積み上げればいいのです。みんなが振り向いてくれなくても、カッコ悪くても、ちっぽけでもいいのです。希望を持って、ペダルを一回一回確実にこいでいきましょう!自分にとって必ず大きな宝物を手に入れることができます。
この旅を終えて、ただおもしろおかしく一人旅を満喫したのではなく、いろいろな意味で修行することができたことに、大きな喜びを感じています。また、こういう経験を積み、何かをみなさんに伝えていけたらと思います。教員として、子供たちにも大切なことを伝えていきたいです。
旅の途中での励ましのコメントも、本当にありがたかったです。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。